「おにぎりに巻かれた黒いやつ」で、gemma-4-12Bの量子化ビルドを炙ってみた
ローカルLLMを触っていると「量子化すると頭が悪くなる」という話を山ほど聞く。でもその「悪くなる」を、英語のベンチじゃなく、日本人なら一瞬で判定できる形で見たことはあるだろうか。
自作のベンチツールでgemma-4-12Bを量子化・ビルド違いで回していて、面白い壊れ方を見つけた。お題はこれ。
おにぎりに巻かれている黒いやつってなんだっけ?小学生にもわかる感じで教えて。
このお題のキモは「簡単なこと」ではない。海苔を普通こんなふうには呼ばないところにある。「海苔って何?」と直接聞いていない。「おにぎりに巻かれた黒いやつ」という、一段ひねった言い方から、海苔という概念を手繰り寄せられるか——連想力を見ている。同時に、日本のことを学習していれば当然データセットに入っているであろう、ど真ん中の常識でもある。
結論から言うと、どのモデルも「のり」には正解した。連想は全モデル通った。 差がついたのは、その先の日本語の出力品質である。そしてそこに、ビルド元による明確なグラデーションが出た。
壊れ方には3段階あった
同じgemma-4-12Bでも、Unsloth量子化のビルドだけが、深さの違う3種類の破綻を見せた。プロンプトは全モデル共通(system: 自然な日本語で変なスペースを入れずに答える / user: 上記のお題)。
① 多言語が漏れる — Unsloth QAT-UD-Q4_K_XL
海weed(うみのも)という海の植物を、細く切って乾(かわ)かしたものです。
「海weed」。英単語の weed が日本語の出力に直接漏れ出し、しかも「うみのも」という存在しない読みが振られている。
② ふりがなが壊れる — Unsloth Q3_K_S
海藻(かいも)の一種で、お寿司やて焼き物などにも使われることが多いです。
漢字「海藻」は正しいが、読みが「かいも」(正しくは「かいそう」)。さらに「て焼き物」という謎単語も出た。(海苔ではないらしいが海藻を焼き物に使うことはあるようだ。「藻掛け」)
③ 文法がねじれる — Unsloth IQ4_XS
お米に巻くと、磯のいい香りがして、おにぎりをおいしく食べてくれるための大切な材料です。
漢字も読みも正常。だが「おにぎりをおいしく食べてくれるための材料」は、主語と動作がねじれた不自然な日本語になっている。
一方、Google公式(lmstudio-community配布)の2ビルドは、この種の破綻を一切起こさなかった。
lmstudio QAT-Q4_0
海(うみ)の近くにいる「海藻(かいそう)」という植物を乾燥させて作ったものです。
lmstudio Q4_K_M
海の中の海藻(かいそう)という植物からとられたもので、おにぎりを包むと、お米が手にくっつきにくくなるし、おにぎりの形も崩れにくくなるので便利なんだよ。
読みも文法も自然。同じ12Bのベースモデルだが、日本語の出力品質の保たれ方が違う。
数字で見たトレードオフ
面白いのは、この「壊れたビルド」たちが、速度では勝っていたこと。手元の実測(max 1024 / 同一プロンプト・条件で揃えた)はこうなった。
| 配布元 / ビルド | 量子化 | 速度 (t/s) | VRAM | 品質 (目視で手vote) | 日本語の破綻 |
|---|---|---|---|---|---|
| lmstudio-community gemma-4-12B-it | Q4_K_M | 12.35 | +7759 MiB | 100% (4/4) | なし |
| lmstudio-community gemma-4-12B-it-QAT | QAT-Q4_0 | 22.13 | +7754 MiB | 100% (4/4) | なし |
| unsloth gemma-4-12b-it | Q3_K_S | 26.28 | +6431 MiB | 75% (3/4) | 読み(かいも) |
| unsloth gemma-4-12B-it-qat | QAT-UD-Q4_K_XL | 26.83 | +7751 MiB | 75% (3/4) | 語彙(海weed) |
| unsloth gemma-4-12b-it | IQ4_XS | 26.93 | +7624 MiB | 75% (3/4) | 文法ねじれ |
計測条件: llama.cpp b9518 / CUDA / n-gpu-layers 99 / flash-attn on / KV cache q8_0 (k/v両方) / fit-ctx 65536 / 単一モデル・parallel 1。OpenAI互換API(/v1/chat/completions)経由、リクエストの max_tokens=1024(サーバ上限 n-predict=4096 のため実効上限は1024)。VRAM実測はこのKV量子化前提の値。
きれいに傾向が出ている。速いビルドほど品質voteを落とし、品質満点のビルドほど遅い。 公式Q4_K_Mは品質100%だが12 t/sしか出ず体感はかなり重い。逆にUnslothは26〜27 t/sと快適だが、おにぎりベンチで日本語の破綻を見せて1票減点された。
「日本語で快適に使う」と「日本語が壊れない」のちょうどよさはlmstudio-community gemma-4-12B-it-QAT が近そうだが、しかし26tpsと22tpsの差は案外大きい。
なぜ気づけたか(測り方の話)
このベンチツールでは指標を2軸に分けている。ひとつは機械スコアで、tokens/sとVRAMから機械的に出す「快適さ」の指標。もうひとつは品質スコアで、出力を見て自分でup/downを押した票の比率。
機械スコアだけ見ていたらUnslothが「速くて良い」で終わっていた。「海weed」に気づいたのは、出力そのものを目で見て品質voteを押す側の工程があったからだ。速いから良い、では拾えない差が、ここにある。
次にやること
- 同じおにぎりベンチをQwen系・llm-jp系でも回し、量子化耐性に差が出るか見る(gemma 4 E2Bあたりは、この問いに対して同規模のQwenにはない独特の逃げ方をした記憶があるので、それも別途)
- 「海weed」型の破綻を一問一答でなく、もう少し体系的な日本語タスクセットに育てる
- 機械スコアと品質スコアの相関(速いほど壊れるのか)をモデルをまたいで検証
ツールは自作で、ローカルのllama.cpp / LM Studioを相手にbenchmarkをqueue実行し、速度・VRAM・品質を記録できるようにしている。